恋愛の達人に出会う
「彼氏のこと忘れたいんだろ?」
恋愛の達人と名乗るナンパ師と一夜を共にした朝彼はもういなかった。
薄目を開けて彼が部屋から出ていくのを見届けてから私はスマホを開いて新宿からの電車の時刻表を確認した。
今思えば、それは私にとって大きな転機だったのかも知れない。
その男は自分の事を恋愛の達人と名乗っていた。
マッチングアプリで出会ったその男は26歳で新卒の会社を退職してナンパ師をしていた。
稼ぎはいいようでブランドものを身に纏っていた。
男と出会ったのは2017年5月、元カレKと別れて2ヶ月が経っていた。
婚約破棄されて人生のどん底に落ちた私は何もかもを失っていた。
そんな私の心を癒してくれたのが彼だった。
いや、それは癒しではなく慰めだったのかもしれない。
その時、私は自分の人生に迷い悩んでいた。
失恋する前は、恋人の彼が全てだった。
私はそのKと結婚して幸せになるはずだったけど私は婚約破棄された。
彼と婚約破棄した後に残ったのは、何もない私だった。
失意の私に恋愛の達人はネットビジネスという「新世界」を見せてくれた。
私にだって何かできるかもしれないと思わせてくれた。
彼は私とのSEXのことを自身のブログに書き、そうやって彼は次の購読者を見つけて稼いでいたのだった。
私はそんな彼のことを分かっていながら、彼との関係を引き換えにネットビジネスの扉を開いた。
でも、私なんかに何ができるだろう。
私は気持ちばかりが焦っていて何も思い浮かばなかった。
私には何ができるのか、そう考えて数ヶ月が経っていた。
その時、私はアパレル業界で起業した別れた彼のことを思い出した。
皮肉だとは思わなかった。
私は女性物の下着を見ているだけで幸せな気持ちになった。
私は女性物のランジェリーを扱う仕事がしてみたいなと思った。
SNSを使ってそんな事を商売としてやってみたかった。
好きな事を仕事にしたい。
その時はそう思った。
この小説は「逢坂純(おうさかあつし)さんに書いていただきました。